二十代から本当の大人になって冷たい風に吹かれてみると、自分が本当は何なのかということがよくわかる。ようするに文無しの失業者でしかないのだ。

ヒロがメタヴァースに豪邸を持ちながら、現実世界では六×九メートルの部屋にどう今日しているのも、そのせいだ。
いつも夜のメタヴァースで、物理的・財政的制約から解き放たれたラスヴェガスのようにけばけばしく光り輝くストリート。
家を持っていない貧乏人の場合―たとえば公衆端末からメタヴァースに来る場合など―は、ポートに実体化することになっている。
ストリートには二百五十六カ所のエクスプレス・ポートがあり、それぞれの距離は二百五十六キロずつ。
そのポートがさらに二百五十六に分けられ、一キロごとにローカル・ポートが設置されている。
こうしたポートは、エアポートと似たような機能を持っている。
つまり、ほかの世界からメタヴァースに立ち寄る際の場所だ。
ポートで実体化したあとは、ストリートをぶらぶら歩くことも、モノレールに乗ることも、なんだってできる。

スノウ・クラッシュ〈下〉 (ハヤカワ文庫SF)

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